レイプ・シールド法(強姦被害者保護法)について


「レイプ・シールド法」について、資料としてこちらに置いておく。



「司法におけるジェンダー・バイアス」
第二東京弁護士会司法改革推進二弁本部ジェンダー部会 
司法におけるジェンダー問題諮問会議 編

p261〜262より引用


コラム 

レイプ・シールド法(強姦被害者保護法)    小倉京子/宮園久栄



 アメリカおよびカナダには、「レイプ・シールド・ロー(Rape shield law)」という通称で呼ばれる証拠法がある。それは、性暴力の被害者が訴訟で不利益を受けることを防止する目的で制定された、「強姦被害者保護法」というべき法律である。

 これらは、連邦や州によってその内容や適用範囲(刑事訴訟だけか、民事訴訟も含むか)について違いはあるものの、以下の点でほぼ共通している。すなわち、

(1)被害者が当該性行為以外の性的行為に関わっていること
(2)被害者の過去の性的経験に関する事実についての証拠は排除されるというものである。ただし、以下の場合は除外される。

精子、傷害その他の物的証拠の主体が被告人ないし被告ではないことを立証趣旨とする場合の被害者ないし原告の具体的な性行為に関する証拠
②被害者ないし原告の合意が争点の場合に、被害者ないし原告と被告人ないし被告との具体的性的行為に関する証拠

 なぜ、こうした規定を設けたか。その理由として、以下のような弊害の防止を挙げている。

 第1に、本来、被害者が過去においてどのような性的経験を有するかは、当該具体的な性行為についての「同意」、あるいは、被害者の供述の「信用性」ともなんら関連性はない。被害者の他の性的行為や性的経験についての証拠に証拠能力を認めることは事実判断を誤らせる危険性がある。また、法廷の場においてそれらを問題とすることは、不必要に被害者のプライバシーを侵害するおそれがある。

 第2に、被害者の性行動や過去の性経験に関する証拠を捜査の過程で収集したり、裁判で公開したりすることは、法廷が被害者の性行や行状を裁く場となりかねず、被害者に無用の羞恥心を抱かせ、さらに被害者が周囲からステレオタイプ的なレッテルを貼られる可能性も大きい。これらの行為が許容されると、被害者が告訴をためらって法的救済が受けられなくなるばかりか、結果として性暴力という違法行為と行為者が放置されることになる。

 この法律が制定されるまで、性暴力事件において、被害者が加害者との性交に「同意」していた証拠として、被害者の過去の性経験が提出されるというケースがしばしば見られた。加害者のそうした戦術は、被害者に法廷で多大な屈辱を与え、また被害者が告訴することを妨げる原因ともなってきた。
 
 そもそもなぜ、従来、当該事件とは関係のない被害者の過去における性経験が問題とされてきたのだろうか。また、加害者に関しては、以前の性的暴行の有罪判決への言及は許されないのに対して、なぜ、被害者に関しては過去の性経験が問題とされるのか。それらは「貞操でない女性は、性行為に同意しやすい」とか「貞操でない女性の供述は信用できない」という強姦に関する誤った「神話」に基づいているのではないか。
 
 レイプ・シールド法は、まさにこうした批判を受け、被害者の声に耳を傾けた結果成立した法なのである。


事例で学ぶ 司法におけるジェンダー・バイアス事例で学ぶ 司法におけるジェンダー・バイアス
(2003/11/06)
第二東京弁護士会司法改革推進二弁本部ジェンダー部会司法におけるジェンダー問題諮問会議

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