置き去りにされている犯罪被害者 ― 性犯罪被害者
発信箱:特別な被害者=磯崎由美(生活報道部)
全国で初めて性犯罪を審理した青森地裁の裁判員裁判を、小林美佳さん(33)と傍聴した。ほとんどの人が声を上げられない中、小林さんは被害を実名で公表し、性被害に遭うということがどんなことかを伝えてきた。
別室にいる被害女性Aさんがモニターを通して意見陳述を始めた。涙で声が震える。「裁判員裁判だからと注目されて、すごくつらい。それでも法廷に来たのは、この苦しみをどうしても伝えたかったからです」。小林さんも自分の事件の記憶がよみがえり、声を殺して泣いていた。私は筆談で「外に出ますか」と伝えた。彼女は首を小さく横に振り、こう書いた。「Aさんが頑張っているんです」
法廷で性暴力の詳細を明らかにした検察側を「そこまで言う必要があるのか」と疑問視する声もあった。過剰と思える表現があったのは確かだ。でも小林さんは悲しそうに言った。「そこまで言う必要がない痛々しい事実。そう言われると、その事実を背負って生きる者としては複雑です。性被害はますます語れないものになってしまう」
どうして性被害は犯罪被害の中でも特別な存在になってしまうのだろうか。青森の事件の被害者は2人とも、事件のことを同僚に知られないかとおびえて暮らしているという。周囲の目を恐れ、警察に届け出ることもしづらい社会は、加害者が犯行を重ねていくのに都合よくできているとさえ思える。
求刑通り懲役15年の判決になったのは、勇気を振り絞り出廷した被害者の力だろう。裁判員の一人は記者会見で「従来の判決が低すぎたと感じた」と言った。裁判員の真摯(しんし)さに思った。司法は性犯罪を軽く見てはいなかったかと。
毎日新聞 2009年9月9日 0時01分 ※強調は引用者
小林美佳さんは、裁判だったら耐えられなかっただろうとも、仰っているし、
裁判員裁判で、詳細に読み上げられたら命を絶つともテレビで仰っていた。複雑な思いでいらっしゃるだろう。私も、複雑な思いだ。
私はそもそも、性犯罪については事情聴取からしておかしいと思っている。ポルノのように見る警察官。検察はそこまでひどくはなくても。書く人の意識がある程度反映されてしまう。
性犯罪が司法関係者に特に軽く見られている現実。
性犯罪被害者が、他の犯罪被害者から置き去りにされている現実。
いろいろな方面からそれが見られるのだが、時効撤廃についての動きを見ていこう。
まず、7月には、撤廃に向けて本格的な諮問会議が始まった。森英介法務大臣は、性犯罪を裁判員制度の対象から外すかどうかについては、全く無関心であったのに。
※以下、強調は引用者
「時効」よ止まれ:公訴時効、殺人事件「廃止」 法相勉強会が結論、法制審に諮問へ 毎日新聞 2009年7月17日
◇遡及可否、慎重に検討
森英介法相は17日の閣議後会見で、殺人など生命を奪った凶悪・重大な事件については、公訴時効の廃止が相当とする法務省内勉強会の検討結果を発表した。「国民の正義観念が変化し、国家の刑罰権に期限を設けることは適当でない」とした。法改正した場合、改正前に発生し、現在も時効が進行中の事件にもさかのぼって適用する「遡及(そきゅう)適用」も憲法上許されると判断したが、是非はなお慎重に検討するとした。
殺人など死刑が上限の罪については、05年の刑事訴訟法改正で公訴時効が15年から25年に延びたが、廃止となれば、明治時代の旧刑事訴訟法(1890年制定)で時効制度ができて以来、初の抜本的な見直しとなる。法務省は早ければ今秋の法制審議会(法相の諮問機関)に、刑訴法改正案などを諮問する。
検討結果では、国民の意識の中に「生命を奪った事件は他の犯罪とは質的に異なり、特別で厳正に対処すべきだという正義観念がある」と指摘。時効制度の存在理由とされる(1)処罰感情の希薄化(2)犯人が一定期間処罰されていない「事実状態の尊重」(3)証拠の散逸−−については、それぞれ「社会の処罰感情の希薄化という事情はもはや妥当ではない」「犯人を処罰して社会秩序の維持・回復を図ることを優越させるべきだ」「検察側に重い立証責任を負わせるが、起訴を断念するのは適当ではない」との反証を挙げて、制度の見直しの必要性を強調した。
廃止の対象は、「殺人など特に法定刑の重い重大な生命侵害犯」とし、傷害致死や危険運転致死など生命にかかわる罪も「均衡上、期間の見直しを行う必要がある」として延長を検討する。一方で、捜査体制の維持や資料保管などの問題点も挙げ、今後十分な検討を要すると付記した。
法改正前に発生した事件への遡及については、これまで遡及処罰の禁止を定めた憲法39条とのかねあいが指摘されてきたが、「実行時に適法であった行為を処罰したり、違法性の評価を変更して刑を重くするわけではない」として、「憲法上は許される」との見方を示した。一方、05年改正時には遡及適用をしていない点との整合性から、政策上の是非をさらに検討する。
法相の勉強会は今年4月、(1)時効の廃止(2)期間の延長(3)DNA型情報を被告として起訴する制度(4)検察官の請求で時効を停止する制度−−の4案を提示。その後、被害者団体や学者、警察庁、日本弁護士連合会から意見を聴いたほか、国民からも意見募集。廃止と延長を組み合わせた結論に至った。
■解説
◇「遺族感情」共感高まり 証拠物保管などに課題
殺人事件の公訴時効を廃止するか、大幅な延長をするかは、人の寿命を考えれば実効性の意味で大きな違いはないと指摘されてきた。それでも法務省が廃止の方向へ大きくかじを切ったのは、被害者・遺族の思いに共感する世論の高まりが、時効の存在理由そのものを薄れさせたと判断したことが挙げられる。
しかし、時効を廃止した場合、捜査体制の維持や証拠物の保管など、捜査上のネックは大きい。事件発生から数十年を経た逮捕・起訴で公判が始まった場合、証言者の記憶があいまいになっていることも考えられ、検察側に重い立証責任を負わせる。被告側も反論が困難になることも考えられる。
こういったハードルをどう克服していくか。遺族感情の尊重から始まった制度改正論議は、今後は学者や実務家を多数交えた法制審議会に場が移る。意義付けとともに、着地点へ向けた具体的な方策を明示することが求められる。【石川淳一】
2009年7月17日
同じ記者の方が、犯罪全体のバランスという点での疑問を、記事にされている。
記者の目:殺人の公訴時効廃止、法改正の前に=石川淳一
殺人など凶悪・重大事件の公訴時効見直しを議論した法相の勉強会が「殺人罪の時効廃止」の方針を表明した。勉強会を始めた当初から法務省内には消極論が少なくなかったため、明治期以来の時効制度改革に踏み込んだことに私は驚かされた。時効が迫る殺人事件の遺族らの悲痛な叫びが世論を突き動かした結果といえる。一方で、国が悲惨な殺人事件の遺族を救済しようとするあまり、殺人以外の事件の被害者施策や、犯罪抑止といった刑事政策のバランスに目が行き届いているのかどうかという点で疑問が残る。刑罰法制のバランスは、社会秩序を守る意味で非常に重要だと考えるからだ。
時効廃止の方針が出た後、殺人事件の被害者遺族、小林賢二さん(63)に話を聞いた。上智大4年だった次女順子さん(当時21歳)は96年に命を奪われ、犯人は捕まっていない。事件当時、私は同じ大学の同じ学年で、面識はなかったが大きな衝撃を受けた。「法律だから(時効になると)あきらめないといけないのか。理屈抜きに何とかしなければ」。そう考えた小林さんは昨年9月、時効廃止に向け活動を始めた。その思いを聞き、遺族に時効という概念を押しつけるのは酷だと痛感した。被害者や遺族の苦しみは癒えることなどないのだ。
英国には時効の概念がなく、米国もすべての州法で殺人に時効がない。殺人事件の時効廃止は決して特別なことではない。勉強会が結論を持ち越した、時効が進行中の事件でも廃止する「遡及(そきゅう)適用」も、実現しなければ今声を上げている被害者を救済できないため必要だと思う。
それでも、バランスという視点に立てばどうか。今回の方針のポイントは、殺人罪を「例外視」したことにある。勉強会の報告書は「生命をあえて奪った犯罪は質的に異なるという国民の正義観念がある」と説明するが、殺人以外の罪については時効延長を検討しつつ「どこかで線を引く必要がある」との見解だ。
07年に時効を迎えた強姦(ごうかん)被害を実名で告白する小林美佳さん(33)は「性犯罪被害者が、ますます被害者の中で置き去りにされる疎外感を覚えた」と感じている。美佳さんには同様の被害者からの相談メールが1年で1500件を超えたが、このうち警察に届けた人は10人ほど、裁判にたどりついたのはたった3人。あまりに多くの被害者が、被害を訴えられないまま一人、胸の中で時効を迎えている。こうした人たちには時効廃止とは全く別の施策も必要だ。
一方で、交通事故の被害者団体は、交通死亡事件の時効廃止を訴えている。突然家族を失った悔しさや悲しみが根底にある。
だが、人員や証拠保管の問題を背景に、事件が長期化するほど捜査態勢は縮小する傾向にある。日本弁護士連合会は「時効廃止で本当に被害者や遺族が期待する犯人検挙が可能となるのか」と疑問を投げる。04〜07年に時効の成立した殺人事件は193件。この間、時効成立後に犯人が判明したのは3件に過ぎない。
オウム真理教の事件を受けて被害者施策の重要性が叫ばれ、05年には犯罪被害者等基本法が施行され、改正刑事訴訟法施行で殺人罪が15年から25年に延長など公訴時効も見直された。刑事裁判への被害者参加や損害賠償命令、少年審判の傍聴なども法改正で制度化された。それまで被害者を「かやの外」に置いてきた司法を変えた意味で高く評価されるべきだが、これらの流れの中心にあるのはあくまで重大事件の被害者であり、必ずしもすべての被害者のために立法されたとは言い難い。
被害者の声を受けた制度改正を、成城大の指宿信(いぶすきまこと)教授(刑事訴訟法)は「厳罰だけを是とする市民感情を取り入れた刑罰のポピュリズム」と指摘する。「被害者施策は『整った』のではなく『偏った』。一部の要求が実現したに過ぎない。施策が進んだというのは幻想」とも言う。
厳罰化の流れの中で、市民の応報感情は立法作業に色濃く反映されつつある。それは国民の求めでもあり、自然な反応とも言える。私が指摘したいのは、被害者の声に押された形での立法を繰り返すのではなく、真に被害者全体を救済する広範な政策を進めてほしいということだ。
声の上げられない被害者への対応。新たな事件発生を食い止めるための犯罪防止や、刑務所出所者の再犯防止を図る総合的な施策。迅速な検挙のための予算や法制度による捜査体制の強化。被害者への経済的、精神的ケアのさらなる充実−−。法務省は早ければ今秋の法制審議会に刑訴法改正案などを諮問する。時効廃止という大転換を機に、こうした政策をはじめとする広範なテーマに視野を向けて議論を深め、あらゆる立場の国民に説得力の持てるバランスある制度を提示してほしい。(東京社会部)
毎日新聞 2009年8月21日 0時04分
8月30日は衆議院の選挙だった。
自民党の劣勢が伝えられ、民主党政権の実現が目に見えてきたとき。
動きが起こった。政治的な案件ということだ。
重大犯罪の時効撤廃、法務省が諮問先送り方針
法務省は、殺人罪など重大事件の公訴時効撤廃を盛り込んだ刑事訴訟法改正に関する原案について、9月17日に開かれる法制審議会への諮問を見送る方針を決めた。
法制審の日程が衆院選後の組閣直後に当たる上、現時点では撤廃に慎重な姿勢を示している民主党の動向を踏まえ、この時期の提出は適切ではないと判断した。時効撤廃は犯罪被害者の切実な声から同省が改正に乗り出したものだが、政治情勢の影響を受けることになった。
今回の時効撤廃案は、森法相が今年1月、制度のあり方を再考するため設置した勉強会で議論された。政務官や同省幹部により検討が行われ、7月、殺人罪など特に重い罪の公訴時効を撤廃すべきだとの報告書をまとめ発表した。
これを受け、同省は審議のたたき台となる原案作りに着手。9月17日に予定される法相の諮問機関・法制審議会へ提出する方向で調整されていた。
一方、民主党は刑事政策の一つとして、刑罰のあり方を考えるプロジェクトチーム(PT)で今年、公訴時効制度の見直しについても論議を始めた。今回の衆院選に伴い発表した政策集では、法定刑に死刑が含まれる重罪事件で特に悪質な事例について、「検察官の請求によって裁判所が公訴時効の中断を認める制度を創設する」とした。完全な撤廃には慎重とみられる。
さらに、PTは犯罪被害者側の要望と、容疑者側の権利擁護のバランスをとることを重視。冤罪(えんざい)防止などの観点から、取り調べの録音・録画(可視化)を広げるべきだとの意見が強いという。
これに対し、同省はすべての刑事事件について取り調べを可視化することには難色を示す。PTでは「時効見直しを考えるなら、可視化をさらに進めるべき」という意見も出ているため、同省は現政権下で進めてきた政策と符合しない可能性も考慮し、法制審への諮問を見送ることにした。
◆選挙後も議論を◆
犯罪被害者遺族の長年の願いがこれで途絶えるものではない。法制審での審議は、2004年に殺人罪などの時効が15年から25年に見直されて以来の大きな動きだっただけに、被害者側からは懸念の声も出そうだ。しかし法務省刑事局は「実務上、新内閣や大臣の考え方を聞かなければならない。見直しの方針に変わりはない」としている。
優勢が伝えられる民主党も、現行の時効制度について問題意識を示す。未解決事件が多く、犯人が逃げ延びてしまうこともある現行の制度を見直すという点では方向性は同じだ。衆院選後も実りのある議論が続くことを期待したい。(社会部 中村亜貴)
(2009年8月26日03時14分 読売新聞)
そして選挙後、民主党の圧倒的勝利を受け、最近の動き。
殺人事件遺族の会:「時効見直しを早急に」新政権に訴え
凶悪事件の公訴時効撤廃・停止を求めて結成された「殺人事件被害者遺族の会(宙=そら=の会)」(宮沢良行会長、21事件遺族)は、東京都葛飾区の上智大生殺害事件(96年)と愛知県豊明市の母子4人殺害事件(04年)の発生日にあたる9日、葛飾区内で緊急集会を開き、民主党を中心とする新政権に対し、時効問題の速やかな検討を訴えた。
民主党は「刑罰のあり方検討プロジェクトチーム」で、公訴時効見直しについて議論を進め、今年4月には宙の会からヒアリングした。衆院選のマニフェストでは時効問題に言及しなかったが、7月17日現在の政策議論の到達点をまとめた「政策集2009」の中で、「法定刑に死刑が含まれる重罪事案のうち、特に犯情悪質な事案について、検察官の請求によって裁判所が公訴時効の中断を認める制度を検討する」と盛り込んでいる。
一方、森英介法相の法務省内勉強会は7月17日、殺人など生命を奪った重大事件について「公訴時効の廃止が相当」と結論づけ、現在時効が進行中の事件にも法改正の結果を遡及(そきゅう)させることも「憲法上可能」とした。法務省は勉強会の検討結果を、新政権の法相に伝えた上で、法制審議会(法相の諮問機関)に、刑事訴訟法改正案を諮問する方針とみられる。
緊急集会では冒頭、世田谷一家殺害事件(00年12月)で長男一家4人を失った宮沢会長(81)が「私たちと同じような苦しみを誰にも味わっていただきたくない。事件抑止のために、時効見直しを早急に進めてほしい」とあいさつ。上智大生殺害事件で次女を失った小林賢二・代表幹事(63)は「新政権は『国民の生活が第一』と主張している。国民の安全につながる時効制度の見直しを、喫緊の課題として受け止めていただけると確信している」との緊急声明を読み上げた。新しい法相にこの声明文を提出する。
上智大生殺害事件は96年9月9日、小林順子さん(当時21歳)が首などを刺され殺害された。母子4人殺害事件は04年9月9日、豊明市の加藤利代さん(同38歳)と子供3人が刃物などで殺害された。いずれも自宅は放火された。【山本浩資】
◇宙の会緊急声明(要旨)◇
私たちは、かけがえのない家族の命を失いました。一方、命を奪った未解決事件の犯人は逃亡し、時効が来れば一切の責任を負うことなく堂々と生きていけるのです。
命の尊厳を極める社会こそが安全な街との目標を定め、時効撤廃こそが道理ではないかと訴えてまいりました。国民の声、法務省の対応、各党のヒアリングで、撤廃の方向性に光明を見いだしているところです。
新政権で方向性が一層加速することを期待しています。「国民の声」を重視し、「国民の生活が第一」と掲げる政策から、国民の安全につながる時効見直しは、喫緊の課題として受け止めていただけると確信しています。
時効撤廃で、公訴提起(起訴)の機会を残し、責任を問う機会を保つことが、正義の実現と言えるのではないでしょうか。
私は、性犯罪被害者だ。同時に、犯罪被害者でもある。
だが、犯罪被害者は、性犯罪被害者を除け者にする。そういうつもりはなくても、現実にそうだ。置き去りにされているのだ。(上の記事に書かれている方たちのことではない)
実は、裁判員制度のことでも、あちこちの犯罪被害者の会にもSOSメールを発信し、声をかけたのだ。守秘義務については同じなのではという思いがあったから。
だが反応はなかった。
他にも同じようなことはずっとずっと繰り返し起きている。
置き去りにするならば、特別に扱うつもりなのかというとそうではなくて、都合が悪くなると「性犯罪だけ特別扱いする必要はない」とこういうときだけ同じ扱いをすることを主張する。
要するに、何も考えていないのだ、性犯罪に対して。
また、犯罪被害者と犯罪被害者遺族は、違う。もちろん遺族の方も犯罪による被害で家族をうしなったのだから、被害者ではあるだろうが、害を被った本人とは違う。
犯罪被害者の地位向上は、犯罪被害者遺族の一部の力ある人々によってもたらされてきた。
なので、社会一般の目から見た”犯罪被害者”への眼差しは、犯罪被害者本人の立場からすると違和感を感じる。
被害者だって国民の一人なのだ。
厳罰化や処罰感情だけで生きているわけではない。
厳罰化というと、加害者本人への個人的な恨みという面がクローズアップされているように感じる。
本人への個人的な恨みであれば、刑事裁判などしない。
私は、訴えるべきとは言えない。到底言えない。より傷がえぐられ深くなったようにさえ思う。
だが、訴えないほうがいいという、その現実はおかしいと思う。
どうして訴えたかというと、助けてほしかったからだ。身の安全を保障してほしかったからだ。
助けを求めただけだ。当たり前のことをしただけだ。
正義とは、当たり前のことではないのか。
性犯罪の場合は特に、その当たり前のこと、正義が叶わない、あまりに加害者が守られ被害者が貶められ、まるでこちらが犯罪者であるような扱いを受ける現実に、うちのめされる。
強姦罪が親告罪であるのが問題だ、と言われているし私も問題だとは思うけれど、それは訴えないと犯罪としてしか扱おうとしない、訴えても告訴取り下げを強要されるような現実だ。
実際に、親告罪ではない強姦致傷罪や集団強姦罪でも同じことが起きているからだ。
性犯罪では、犯罪を犯罪と認知しないことが問題なのだ。
刑事裁判は、民事裁判とは違うのだ。
厳罰化、処罰感情と非難し警戒するよりも、裁判の意味をまずきっちり理解してほしいと私は思う。
そして、被害者だって国民の一人であることを忘れないでほしい。
被害に遭ったその瞬間から、別の人間、国民ではないように扱うのは勘弁してほしい。
加害者は、逮捕されても自動的に国選弁護人が付く。弁護人に会いたいと希望すれば会うことができる。衣食住に困ることもない。
だが被害者は、弁護士を頼むのも大変だ。探すのも簡単ではない。特に性犯罪に関しては、理解ある方の方が少ないのだから。
そして、検察官は、被害者には最低限の情報しか与えない。被害者が疑問に思ったり説明してほしいと思う点があっても、検察がその必要はないと判断すれば、無理だ。
会うことも電話することも、自由にはできない。
加害者は自分の都合で弁護人に会うことはできるのに。
弁護人は、被害者の情報も入手できる。調書も。そして戦略をたてることができる。
だが検察官は、今まであまりに勝手にしてきていた。被害者の意思をふみにじることさえ平気で。
被害者がどういう扱いを受けてきたのか、性犯罪被害者は中でもどういう扱いを受けているのか。
厳罰化や処罰感情と決め付ける前に、知ってほしいと思う。
逮捕されても衣食住に困ることのない加害者と違い、
被害者は、人生を奪われるに等しいダメージを受けても、働きたいのに働けなくても、何の経済的支援もない。
厳罰化が騒がれているが、性犯罪の場合は今までの刑が軽すぎたのだから、前にも少し述べたが、仮に刑が従来より重くなっても、厳罰化ではない。適正化だ。
被害者は、適正化を望んでいる。むやみやたらと重くすればいいと思ってはいない。
逆に、軽くするならば、絶対に、再犯をしないという保証がほしい。
性犯罪は、他の犯罪とは違う。
何百人と殺人をすることは難しくても、何百人と性犯罪を行うことは、性犯罪者にとっては簡単だ。
性犯罪は、外国のデータでは、数十人から数百人の被害者を、一人の加害者を出す。
カナダでは、平均73人だ。
日本は、加害者を処罰しようともしない傾向が強いのだから、もっともっと多く、おそろしい数になっているだろう。
簡単に野放しにしろというのならば、社会的不利益をどう考えているのか。
前にも少し書いたが、私に危害を加えた加害者は、何百人の女性の人生に破壊的ダメージをあたえ、それでも、たった懲役6年数ヶ月だ。
仮釈放されるかどうかは、刑の3分の一終了した時点で審査の対象になるそうだ。態度や事件によって異なるという。その明確な基準はないようだ。あるかもしれないが内部の極秘事項だろう。
だんだん仮釈放が厳しくなっているから、3分の1ではおそらくならないだろうが、はっきりとは言えない。次はいついつに連絡してくれればわかる。それが回答だった。
私はしょっちゅう確かめないといけないのだ。あの、悪魔がいつ出てくるのかを。
自分のためだけではない。
他の女性に何百人と同じ事をしたのだ。
またそれが繰り返されるなんて、私にはたまらない。
時効撤廃を求める犯罪被害者の方のお気持ちを否定するつもりはない。
だが、日本は、犯罪被害者の地位向上が、犯罪被害者ではなく遺族の一部によりもたらされてきた。
犯罪被害者自体は長年活動していたのに、たったの数年でできた。すごいと思うし、その努力を否定するつもりはない。だが、もともとのスタートの地位が有利に働いたのは、申し訳ないが事実だ。日弁連での地位を考えると。
被害者参加制度を導入できたのは、大きな功績だと思うし感謝をしている。
それがどう思われる結果になったのか ― 厳罰化、処罰感情が強調され警戒されている今。
― それはまた彼ら自身の他での活動全てによるものなのだから、それはまた、同じように見られるのは ―犯罪被害者としては、少し残念だ。
そして彼らの本音はこうだ。「暴行脅迫をもちいた性行為と、通常の性行為の違いがわからない」と。
だから彼らは、むしろ敵だ。
上の記事には出ていないが、民主党政権になり、どういう動きを今後していくつもりなのか。
犯罪被害者遺族の方たちを全て敵視しているわけではない。他の会の方々とは、力をあわせられたら、と思う。
私が、性犯罪被害者として、そして女性として、人間として許せないとただ思うのは、単に、「暴行脅迫をもちいた性行為と、通常の性行為の違いがわからない」男性弁護士の集まり、だけだ。ここにまず、司法関係者のおかしな感覚が反映されているだろう。
司法関係者の中でも、被害者支援に理解のあるハズの立場の人々だ。
こんな人たちのせいで「厳罰化」「処罰感情」と決め付けられるのはたまったものじゃない。
まず、歴史的に考えてほしいと思う。
日本は、戦前の、犯罪者に簡単に拷問をあたえていた現状を改善すべく、戦後は加害者の人権をかなり守ってきた。犯罪被害者より犯罪者の方に重点を置かれていたのだ。
今も、裁判員制度は憲法違反だと、主張している加害者のことが話題になっているけれど。
いちど犯罪被害者になれば、基本的人権などないに等しい。
申し訳ないが、わざわざ憲法違反だの言えるのが羨ましいとさえ思う。
いくら主張しても、聞き入れられないほど当たり前とされている、基本的人権を奪われている現実。
憲法自体、守られていない現実。
守ろうとしていない法律だらけの現実。
犯罪被害者の中でも、置き去りにされた性犯罪被害者を、どうするのか。
刑事訴訟手続き自体が、ありえないほど遅れている日本。
まずは、取り調べの可視化を。
冤罪の温床も問題だが、
ポルノのような調書ができあがるのは、取調官により質問され、被害者が答えたものを、被害者が一人称である調書で語る口調としてつくられるからだ。
情報は取捨選択される。被害者が重要だと思うところが反映されているわけではなく、取調官が重要だと思うところのみが反映される。
あまりに辛い事情聴取をなんとか終わらせ確認する頃にはぐったりしていて、やり直してほしいなんて言えないのが普通だ。
ましてや手書きであればなおさら。内容が間違っているわけではないのだから。
これについては、また別にまとめたいと思う。
冤罪ばかりに焦点をあてずに、被害者も事情聴取をされていることを忘れないでほしい。
被害者だから敬意を払われた対応をされているわけではないのだから。
いくつかの記事で述べてきたが、性犯罪被害者は、本当にひどい扱いを受けている。
時効関連で、証拠保全のことが触れられているが、日本は、性犯罪に関しては、時効でも何でもないのに、証拠保全さえできないのだ。
性犯罪被害者は置き去りにされているあまり、あまりにかけ離れた感覚の差を感じてしまう。
何より、殺人のみが凶悪犯罪とみなされている現実。性犯罪は犯罪とさえみなされていない現実。
異常だ。
欧米だけではなく、韓国にも台湾にも、被害後駆け込める、レイプクライシスセンター(ワン・ストップ支援センター)がある。
韓国のワン・ストップ支援センターについては、いくつかの記事でリンクをはったけれど、台湾の取調べ可視化の進んだ事情(というより日本が遅れているだけなのだが)についても触れておこう。
あまり知られていないが、台湾は刑事事件の容疑者の取り調べに弁護士が立ち会う権利を確立している。1993年に沖縄弁護士会の視察に同行したことがある
▼全土の警察署の取調室にビデオカメラが備えられ、言葉を含めた暴力を振りかざして自白を迫る捜査に歯止めをかけていた。警察署内に置かれ、「自白強要の温床」という批判が絶えない代用監獄もない。隣国の先進性に視察団は目を見張った
▼台湾で立会権が認められたのは82年。短銃を使った銀行強盗事件が起き、拷問を受け自供した容疑者が現場検証の際に川に身を投げて自殺した。直後に真犯人が分かり、国民の猛烈な批判が法改正を促した
▼台湾の警察庁幹部はこう言い切った。「人権を保障するため、できるだけ弁護人を立ち会わせている。捜査に支障はなく、逆に適正さを証明できる。日本は刑事手続きでは後進国じゃないか」
▼90年に女児が殺害された足利事件で、冤罪(えんざい)を訴えていた菅家利和さんが、釈放された。菅家さんに罪を着せたのは、不正確なDNA鑑定と尊厳を踏みにじる過酷な取り調べだった
▼取り調べの全面録音・録画がなされていれば、虚偽の自白による冤罪は防げた。検察当局は導入に消極姿勢を崩さないが、国民の視線は険しい。「後進国」と言われ続けないためにも、決断すべき時が来ているのではないか。